各組について一言ずつ
●蛙亭
ストーリー性が強いと、笑いとは別の感情に流されるところがあって、「映画で見たい」という松ちゃんのコメントもギャグとしてでなく、自分が受けた印象に近いものがある。蛙亭は「有ジェネ」とかネタ番組で見て、いつもああすごい面白い感性を持ったコントを作るコンビだなーと感心している。自分はもう少し日常的な設定のネタが見たかったかなと思う。中野さんが奇人でそれをニヤニヤしながら、愛しそうに受けるイワクラさんの関係性のネタが好き。ただストーリー進行があるので、停滞感はない。
アタック西本さんの登場シーンでついにジェラードンが爆売れする、と思った。2人の掛け合い、だれかが言ってたように海野さんの引いたつっこみも心地よくて5分間ずっと楽しかったんだけど。ただここはストーリー進行や展開が少なく、そういうネタなんだけど、やや停滞感はあった。
準決勝初日イチウケと聞いていた「ボトルメール」、噂に違わず面白かった。衣装や音楽、モノローグの入れ方など、雰囲気作りが良かったし、平井さんのあの見た目とあのキャラクターに魅力があった。モノローグはハートフルな雰囲気がありつつバカっぽさもありつつ。主人公の視点の提示があることで話に入り込みやすさがあった。演出のこだわりやエッジの鋭さ、そしてあの平井さんの見た目にかつての千原兄弟のコントを連想したお笑いファンも少なくないはず。2番手までも十分に受けていたけど、ここで明らかに雰囲気が変わった。
満を持しての「迷子センター」だったけど、満を持し過ぎたというか、やはりネタには旬というものがあるんだと感じた。これを2019年の2本目に持ってこれていたら…と思ってしまう。うるブギの最強ネタ、今のコントシーンで屈指のネタであることは間違いないんだけど。あと佐々木さんの言葉が聞き取りにくかったり、八木さんの間合いや演技もいまひとつだった気がする。強いネタだけどなんかうまく歯車がかみ合ってない。
松ちゃんの低評価やコメントは、シンプルで物足りなかったという雰囲気だった。自分はシンプルで、あまり話の進行がないことも含めて見やすくて好きだった。自分がニッポンの社長が好きすぎてあまり冷静になれていないのかもしれない。松ちゃんが10点上乗せしたとして、3位と考えると4位は妥当かも。ボケ1個のストロングスタイルのニッ社が大好きだけど、物足りないという印象を受けるのもわかるというか、しょうがないんだろうなあと。
●そいつどいつ
前半は「パック顔がホラー」とわかりやすいけどわかりやすすぎないかと思ったけど後半にかけての仕掛けはインパクト大で楽しかった。ただ演出の面白さや新しさと、コントとしての笑いの満足度はまた違う所もあり。前半がベタすぎたのと、ホラー要素の強さが仇となったのかあまり点数は伸びず。今年の優勝者以外全組に感じるけど、来年の有力ファイナリストであり、優勝候補であり、今年の活躍が楽しみだ。
●ニューヨーク
会話の掛け合いのセリフの面白さとかはあってすごい良かったんだけど、会話が成り立たないことでグルーヴが生まれにくい感じもする。筋書がやや和牛の「ウェディングプランナー」と被る。最後の展開は何をやっているのかいまひとつわからなかった。コントコントしすぎというか、自然な感触がもう少し欲しくなる。
●ザ・マミィ
酒井さんのナチュラルボーンなキャラクターは大好きだし、今回激ハマりしたのはわかる。林田さんの優しそうな雰囲気も好き。ただ自分はこのネタもハマりきらなかった。まず「やばいおじさん」のネタがあまり好きじゃないのがある。線引きは難しいけど自分はお笑いのネタの題材として見ていて、「そうならざるを得なかった弱者を揶揄している」ように感じてあまり好きじゃない。結局、そういった偏見の目をなくそうというテーマのコントになり、見ている側の共犯意識はなくなるんだけど、はっきりと言うとそういうメッセージが嫌いだ。空気階段の電車のネタと似てるんだけど、やばいおじさんをネタにしても、実はいい人でハートフルな話に仕上げれば、悪ではないというパターンがどうしても好きになれない。
それと林田さんのキャラが超善人なのはわかるけど、見ず知らずの人に鞄や財布を預けるという行動が良くわからなかった。「トイレにいくから財布をあずける」という行動は普通に考えるとあり得ない。夫婦や恋人であれば財布を預けることはあるかもしれないけど、トイレに行くから預けるという事は意味が分からないのでしないと思う。そういう部分が気になって後半の盛り上がりに参加できなかった。
●空気階段
ここでも審査員から「映画のような」とコメントがあったけど、こちらはストーリー展開が面白いのに加えて、やっていることが真剣になればなるほどにバカバカしく感じられて笑いの印象が強かった。もぐらさんのビジュアルの迫力や、ゴールデン、一世一代の賞レースの決勝なのにSMネタみたいなはみ出し方も含めて魅力的で、なんだかわからないけどすごいものを見たというコントだった。考えてみたら「クローゼット」と「電車」で決勝に行けなかった年から、空気階段の優勝のカウントダウンは始まっていて、タイミングの問題だけだったかもしれない。特に1本目は、明らかにやばい人という所ではなく、どこにでもいる普通の男性の悲哀を描いていてそこが良かった。2本目のおじさんも、自分の中では笑える、許せるラインの狂気性だった。
いやーマヂラブらしいというからしすぎるというか、つり革というか。自分たちのネタであっても過去のネタと似通った印象を抱かせたら不利。深夜に学生が心霊スポットで、という情景があまり浮かんでこなかった感じはある。本質的なネタの面白さとは別に、時代の空気より一歩先に進んだような感触が欲しかった。
●ファイナルステージ
点差で言えば、2位3位でも十分逆転可能だと思うけど、ファーストラウンドが終わった時点でよっぽどのことがない限り(空気階段が大きく外し、2位3位が爆跳ねするとか)空気階段優勝というムードだった。まあ自分がマミィにハマってなく、男ブラが「ソウドリ」でやった袋のネタと事前に知ってたからというのもある。
男性ブランコ。ここでもう一本、強いネタを用意できれば勝機はあった。袋は展開が少なく3分程度で見るのがちょうどいいネタ。「ソウドリ」で見た時からストーリーの続きがあったけど、構成力の巧みさは感じても大きな山場にはならなかった。
マミィ。1本目ははっきりと苦手だったけど、2本目は単純にネタの強度が足りない。酒井さんが社長に見えないし、社長と部下の関係性に感じられない。審査員も言っていたように「あるタイプのネタ」だ。ここも酒井さんのキャラに特化した強いネタの用意があれば勝機はあったはず。
空気階段。よほど大スベリでもしない限り空気階段優勝のムードの中、1本目と違ったテイストで見る人によってはこっちの方が面白いというネタを持ってきて、余裕のあるウイニングラン。この3組の審査で空気階段が勝てなければ相当おかしい審査だった。冒頭からラストまで様々な仕掛けを凝らして見る側を飽きさせなかった。かたまりさんの書く台本は小説や演劇に近い雰囲気がある。
全38組。過去ファイナリスト経験者は赤字表記
Attack
あっぱれ婦人会
Aマッソ
オダウエダ
オトメタチ
おもちの列島
女ガールズ
CRAZY COCO
大吟嬢
高田ぽる子
茶々
にぼしいわし
ハイツ友の会
はなしょー
フタリシズカかりこる
紅しょうが
ポッポテンポ
POFFY
もじゃ
ヨネダ2000
2年に1度
過去ファイナリストは12組もいるんだけど、ファイナリストを経て、それぞれ確実にステップアップはしてると思うけど、はっきりと売れっ子になった、という所は一組も居らず、ネームバリューとして見ると、やはり他の賞レースと比べて見劣りする。その分、若手芸人の青田買いという意味ではみどころがある。自分は賞レースを見るとき、今までなかったような新鮮な感動を味わいたいと思っているんだけど、そういう意味では見どころ満載だと思う。決勝もそうだけど、準決勝が楽しそう。昨年のAマッソとゆりやんのネタを初めて見た時のインパクトは未だに色あせない。ああいうのが見たくてお笑いを見ているといっても過言ではない。個人的注目は、初年度から準決勝に進んでる福士奈央、スーパーニュウニュウフルヤイナヤとポンループアミのユニットPOFFY、M-1ファイナリスト変ホ長調、この中では一番の売れっ子ヒコロヒー、昨年決勝進出を果たしながらもコロナで欠場となったスパイク。オトメタチのゆきえさんは、去年は女ちゃんみたいな感じのコンビ名だった気がするけど、カーニバルの頃から、こんな存在感があって面白いのになんで売れないんだろうと不思議に思ってる。石野桜子って昨年も準決勝に残ってたと思うけど、天然素材に出てた芸人さんだけど、どんなネタをやるんだろうと気になってしょうがない。あぁ~しらきは折に触れて思い出すけど、今年はどうだったんだろう。あと今の勢いで島田珠代さんにも出てほしかったなあとか。チケットが手に入れば見に行きたいけど、今年も観客入れるかわかんないってHPに書いてあるからタイミングをつかむのが難しいか。
Aブロック
●爛々(漫才「子供の職業」)
●ニッポンの社長(漫才「ヒーローインタビュー」)○
●カベポスター(漫才「コンビニ店員」)
●丸亀じゃんご(漫才「ドッキリ」)
Bブロック
●エンペラー(漫才「自動販売機」)
●ビスケットブラザーズ(コント「レジ使い」)○
●チェリー大作戦(コント「食い逃げ」)
●からし蓮根(漫才「服屋」)
決勝
●ビスケットブラザーズ(コント「高級キャバクラ」)○
ブロックごとに感想。Aブロック、爛々。振り返って考えてみるとここだけ、トラディショナルな漫才で、浮いて感じられる。かつての女性漫才の、よく言えばアップデート悪く言えば焼きまわしにしか感じない。ニッポンの社長。M-1 2015のネタを今ここで持ってくるんだと思ったけど、ニッポンの社長の漫才の代表作はやはり「ヒーローインタビュー」と「荷物多い」なんだと思う。時間が経過して何度か見てもいるけど、見るたびに面白いと感じる傑作ネタだと思う。2015年の時から改変された部分が多かったのも良かった。もしM-1決勝に上がったらこのネタを1本目か2本目かはわからないけど、持ってくる気がする。カベポスター、丸亀じゃんご、Bブロックのエンペラーもそうだけど、この3組辺りは、見ていて「ああこういう発想のネタなんだ、面白い」とみている人が感じ始めるまでに結構時間がかかる。その辺が、2つ目からボケに入るニッポンの社長との大きな差を感じた。カベポスター、丸亀じゃんご、エンペラー、チェリー大作戦、この4組はネタのアイディアが素晴らしくて巡り合わせによっては決勝に駒を進めても不思議はなかったと思う。里見まさとさんがお話をしていたように、チェリー大作戦のオチが秀逸だった。エンペラーの漫才は、テーマ性が滑稽に感じられて好みだった。からし蓮根は以前につっこみの言葉がしっくりこないと書いた記憶があるけど、今回もその印象が変わらなかった。ネタの流れより、つっこみの言葉が先に行き過ぎてるような印象を受ける。ビスブラは2本とも好きだったけど、全体が拮抗していて、ずば抜けて良かったという感じはしない。ニッポンの社長が2本目に違うネタを持ってきていたらと、このことも里見まさとさんは話していたけど、ニッポンの社長が優勝していた可能性も高い。個人的にはM-1やKOCの決勝戦で掛けたネタを別の賞レースに持ってくるのはあまり好きではない。
2021年9月23日 - NHK上方漫才コンテスト - NHK
https://plus.nhk.jp/watch/st/270_g1_2021092356922?cid=jp-D5885G8PKJ