M-1グランプリ2016

今回は各組について感じた事をダーッと書く。ネタの内容の細かい感想はあんまり書かないつもり。かなり気合い入ってる。

 

アキナ

ネタは「離婚する父親とその息子」。トップバッターにしてはとかじゃなくて最終決戦まで行くと途中まで思ってたくらい良かった。丁寧に積み重ねて後半に掛けて盛り上がる理想的な受け方。アキナの魅力は、とにかくシンプルで美しい所。言葉のわかりやすさ、演技の上手さ、一般的な会話のような自然なテンポ。会話が心地良くて話がスッと入ってくる。今回のネタのテーマは「ませた子供」という、使い古されたものだったのは好みではないけど、言葉のセンスが研ぎすまされてた。

 

カミナリ

ネタは「川柳」。予選ではいつも会場を揺らして来たというダークホースコンビ。これ以上無いくらい良いタイミングでのM-1決勝。優勝はともかく今年はカミナリの大会になると思っていた。でも蓋を開けてみたら、受けてるし面白いけど、爆発って感じじゃない。ネタ選択なのか、当日の出来なのか、空気なのかよく分からない。その全てという気もする。「川柳」というテーマはTHE大喜利という感じがしすぎていて、漫才として見ると違和感を感じるので別のテーマのネタ、もっと名刺っぽいネタがあるならそっちの方が良かった気がする。

 

相席スタート

ネタは「振ってしまう球」。合コンと野球を重ね合わせたネタ。相席自体が他に無い独特なスタイルの男女漫才をやってるのに、更にその発展した形の漫才だったのでワクワクしながら感心しながら笑うという変なテンションで見てた。ただ、共感ポイントが人によってバラつくし、ボケとつっこみの漫才じゃないから「どこで笑えばいいか分からない」「どう点数を付けていいか分からない」ネタだとも思うので、点数が伸びなかったのはなんとなく分かる。

 

銀シャリ

1本目が「ドレミの歌」2本目が「雑学」。ここは2013年のTHE MANZAIでやった「騒音」のネタから2015年のM-1でやった「さしすせそ」で明確にネタのスタイルが変わった。かつてはお題に沿ったボケがあり、それに橋本さんのつっこみが乗るという形で流れがあるようでなかった。だけど2015年以降、口喧嘩のようになりながらお互いの主張をぶつけ合う会話のやり取りの妙に主体を置くようになって流れが生まれた。フレーズセンスみたいな所で言えば昔から強かったし、面白い漫才だった。それは変わらないけど昔はどこか無機質で淡々としていた。好みで言えば去年の「さしすせそ」の方が好きだったけど、今年も同じスタイルで同程度のクオリティのネタを2本用意して来た銀シャリの優勝が一番しっくり来る。しゃべくり漫才だから上、というのはどうかと思うけど、ここまで横一線でみんな面白いとそれがアドバンテージになるのはそんなに変な事ではないと思う。和牛の敗者復活はビハインドだろうし。

 

スリムクラブ

ネタは「登山」。上沼恵美子さんのコメントは辛辣すぎるとも思ったけど、的を得ていると思った。自分みたいなお笑いマニアでスリムクラブの漫才大好きな人間でもちょっとぶっ飛びすぎてついていけなかった。スリムクラブの魅力はギリギリの所なんだけど、今回は最初からフルスロットルでラインを超えてる。異世界の話なのかという感じがした。真栄田さんのフレーズセンスは今回のネタに関しても好きだけど、フレーズ勝負になりすぎてて、設定や相手との関係性や心の動きなどが伝わってこなかった。ある意味で大喜利っぽい感じがしてしまった。

 

ハライチ

ネタは「RPG」。一回見ただけだから言い切っちゃうのは良くないのかもしれないけど、とにかく印象に残らなかった。テーマ選択も良いとは思えないし、正統派で勝負するなら武器である澤部さんのつっこみが冗長に感じる。ノリボケ漫才以外も出来るというのは去年証明されたわけだし、あんまり決勝に残る意味合いを感じなかったな。

 

スーパーマラドーナ

1本目は「エレベーター」2本目は「侍」。1本目に関しては松ちゃんと同じ感想、オチに行くまでのやり取りがいまひとつに感じた。問題は2本目なんだけど、このネタは10年近く前のM-1オンバトでかけてた勝負ネタ。お笑いファンなら、知ってる人も多いと思う。テーマを知った時にそんな古いネタをここでかけて大丈夫なのか?と心配になったけど、とにかく一本のネタを何年も掛けて舞台でやり続けて、省いたり足したりしながら調整して仕上げるという職人のような仕事ぶりに感動した。当時から良いネタとは思ってたけど、まさかこんな長い時間を経過して最上の舞台でバカ受けするとは。この辺の話は、銀シャリの「さしすせそ」「ドレミの歌」もそうだし、さらばの「能」もそう。5年、10年かけて仕上げるのが本当の漫才なんじゃないかという気さえしてくる。もはやスーマラの代名詞になってる回想漫才よりも、シンプルな田中さんのヘタレキャラ漫才の方が受けたっていうのは、当然だろうと思いつつも、あーじゃーなんでもっと早く決勝に上げられなかったんだろうという思いと両方ある。とにかく大阪の和牛、スーマラ、銀シャリ、アキナと二番手グループには大きな差があると去年以上にはっきり感じられた。来年はするりと金属バットや霜降り明星が抜けてくるかもしれない。アインシュタインはどうなんだろう…。

さらば青春の光

ネタは「能」。とにかくさらばの漫才で一番好きなネタで、これをM-1決勝の舞台にぶつけてきた心意気に打たれた。勝てるネタ、印象に残るネタを冷静に選ぶ判断力はすごい。コロコロ部分的に改良してたけど、良い形、良い出来で披露できたと思う。ネタ振りに1分費やす不利な構成にも関わらず高評価を受けた。準々決勝の「ジャックと豆の木」も良かったけどあれじゃ印象ちょっと弱かったと思う。準決勝ネタ「ハロウィン」はいつか絶対みたい。自分は今年のM-1はさらばの能が一番良かった。大阪の名人みたいな正統派漫才勢に個性派漫才が一矢報いたと思う。

和牛(敗者復活戦勝者)

1本目が「ドライブデート」2本目が「お祭りデート」。自分は1本目のネタをGYAO動画で見ていて、何故、屁理屈漫才という型を捨ててよくあるようなコント漫才にシフトしたのか理解ができなかった。ただ、決勝の場で見ると、反感や後味の悪さを残す屁理屈漫才よりも素直なコント漫才の方が受け入れられるというのも納得させられるものがあった。1本目を見ていた時、さらばの当落が気になったせいもあるけど、やはり普通、という印象だった。ただ後半の件を見て、これは和牛が覚醒してるのかもしれないという気がしてくる。屁理屈漫才をベースに見ると、オーソドックスとも言えるコント漫才の水田さんのキャラが分裂してるように見えてくる。普通はキャラがブレるからと、ネタごとにキャラを変えてくる漫才師は少ない(と思う)。ノンスタイルでもサンドウィッチマンでも状況や設定が変わっても同じキャラの2人による掛け合いになる。意図的かは分からないけど、キャラ、漫才のスタイルを別物にした事で、一層水田さんがどんな人なのか得体が知れなくなってエキセントリックに見えてくる効果があった。情緒不安定で、行動が予測出来ない男。スリムクラブがある意味マンガのように分かりやすい狂人を演じたのと対照的に、和牛の漫才は現実にいるちょっとやばい人の雰囲気が自然に醸し出されていたように思う。よくしらないけど、多重人格とか統合失調症を連想する。

妄想的な印象論はこの辺で終りにして、和牛の2本目は1本目より面白く感じた。もう一度見直したら変わるかもしれないし分からないけど。M-1のビデオ明日辺りにもう一度じっくり見直してみる。全然違ったわと思ったらちょっと書き直すかもしれない。

 

M-1グランプリ2016 公式サイト