THE SECOND 2023 ネタ感想

大前提として、当然のごとく全組ネタが面白かった。それも普通に面白いというレベルではなく、芸歴15年以上×人生を掛けた賞レース用の本気の強ネタばかりだった。その中で感想と言えば、その芸人の過去ネタとの比較、それもその芸人のベストネタやベストパフォーマンスとの比較という事になる。他にネタの好みや当日の出来などもあるのでその辺について各組を書いていきたい

 

・金属バット

満を持しての賞レース初決勝ということで期待が高まったけど、もう一つ盛り上がり切らず。過去の名作と比較すると、少し地味に感じる。反ワクの所は好きだったけどそこの印象が強くて他はあまり覚えてない。もう少しきわどいネタを入れてほしかった気はするし、ディスネタだと昨年のM-1ウエストランドが頭をちらつくというのもある。TKOネタは三四郎も入れてたけど、アンジャッシュネタ同様に、確実に受けるし角も立たない(おそらく名前出して感謝されると思うので)感じがして、物足りなさがあった。そこから先を攻めたのは三四郎だった。

 

マシンガンズ

久々にマシンガンズの漫才を見てああこういう感じだったなーと思った。あんまり変わってない。話題が移っていく構成は最初戸惑うけど、6分尺のこの大会ならこのパターンもありなのかもと思える。とにかくネタがあるあるで分かりやすく「怒り」というスタイルは熱量を感じさせる。そしてやはり売れない華ないマシンガンズに風が吹いてる感がある。

 

勝敗

マシンガンズ、予選で受けたと聞いたけどあんまり変わってないなあという印象。金属バットはやんちゃで危うい所がもっと欲しかった。

 

スピードワゴン

予選で見て、やっぱりこのネタ勝負ネタだったんだなと思った。改めて見てすごく良いネタ。小沢ワールドのストーリーが面白いし、空想に浸る小沢さんの世界と、漫才的な笑いと二つの流れがあるのが良い。女の子のキャラが変わるのは、ボケとして処理されてたけど世界観に浸るという意味ではちょっと引っ掛かりを覚える。

 

三四郎

お笑いファンしかいない予選/決勝だからこそ受けたという部分もあるけど、おそらくそれとは関係なくこのネタのように振り切れていれば、M-1でも決勝に上げてもらえたような気もする。もう年配の人や、若い人、同世代でも芸能の知識がない人に配慮して自分達が面白いと思うボケやワードを削る時代は終わった。それを象徴するのが今年の三四郎囲碁将棋であり、世間の受け止め方として、そのきっかけとなったのは昨年のウエストランドだと思う。配慮しないし、説明もしない。そこまでマニアックな事を言ってるわけでもないので分かる人にだけ届けばいい。アニメや音楽で、過去の作品の引用をしたりするけどそれと同じようなもので、お笑いのネタをお笑いに引用している。今の流行、時事ネタ、学校で教わる事、みんなが知ってる事だけを題材にするとネタの範囲が狭まり息苦しい。この大会があるのはM-1THE MANZAI、KOCなどの賞レース、数多のお笑い番組、テレビ番組、ダウンタウンとんねるずなどのお笑いの歴史の上にあり、それを踏まえた上で2023年の漫才をやっているという側面がある。賞レースは若い子にウケる分かりやすいネタや、前提知識が要らないネタばかりがピックアップされるものではなくなった。大衆演芸からコアなものへシフトするのは良い面と悪い面があると思うけど、若手漫才を賞レースに特化させた結果の一つだと思う。サブカルネタを遠慮なしにぶち込むことで三四郎の漫才は輝きを増したと思うし、そもそもワードセンスやボケの角度など三四郎の漫才は、ここ20年くらいの東京漫才の代表格であり、オリジナリティに溢れた素晴らしいものだと思ってる。遅すぎたけどようやくここで日の目を浴びた。2014年のTHE MANZAIは決勝に上げるべきだったと今でも思ってる。

 

勝敗

圧倒的な熱量の高さ、受け量的に三四郎しか考えられない

 

ギャロップ

ギャロップは初速が遅い、テンダラーはボケがちょっと分かりやすすぎて軽いというのが気になった。漫才の中で言ってるけど、普通に考えてあり得ない話を前提に進んでいくので、イメージを共有するのに時間がかかる。ただ丁寧に説明をしてる分、イメージを共有できてからの話への没入感は強い。かつら100個という与太話から始まって、葬式の話やかつらが取れた時の話など、細かく掘り下げてくれるので想像すると間抜けで、それを真顔で一生懸命説明する林さんが妙に真面目なので、おかしみが出てくる。

 

テンダラー

優勝候補と思ってたけど、想像以上にお客さんはベタを嫌ってるのかなというのと、話題が移り変わる問題。これも6分だからアリだけど、同じくらい受けて盛り上がった場合に短く区切って場面が切り替わるネタは印象として、複雑なものに感じる。浜本さんの表情や動きのキレ、技術の凄みはあったけど鮮度はなかった。「必殺仕事人」みたいな一点突破のネタが見たかった思いもある

 

勝敗

どちらが勝つかわからなかった。自分はベタが苦手なのでギャロップの方が良いかなと思ってた

 

超新塾

安富さんの声があんまり調子良くなかった時点でちょっと怪しかった。間にまごついてる場面があったけど、あれも多分テンポの乱れだと思う。5人のグループワークが肝なのでその辺がビシッと決まらないとちょっと勢いやグルーヴ感が落ちる。ネタはかなり受けてて盛り上がってたので普通ならこれで勝てるんだけど相手が強すぎた

 

囲碁将棋

ここはギャロップとは対照的に初速が早い。それもつかみの小ボケとかギャグではなく、システム提示からの一発目のボケでグッと盛り上がって、そこから波はあるけどお客さんがもっとその大喜利くれって状態で盛り上がり続けた。囲碁将棋が強いのは、二人ともボケであり、つっこみでありという状態で会話をしている所。普段の雑談の雰囲気に近く、一般的な話でもこの人ボケ役、つっこみ役と決まってなく、その時々でボケたり、つっこんだり、つっこみだけど笑いを入れたりするのは少なくとも関東の人の感覚で言えば、自然なものに感じる。囲碁将棋のこのスタイルというのは、東京漫才の新たなスタンダードになってると感じてる。ポイズンやおぎやはぎと似て非なるもの。ボケ、つっこみという役割という概念がそもそもない。あと友達同士仲が良いと言葉が移ったり、発想が近くなったりするけど、そういう現象を自然に漫才に取り込んでいるとも思う。大喜利部分だけでなく、会話のラリーの中に面白いフレーズを織り込めるのも強み。アリアナグランデから止めろよのあとの会話なんてまさにそう。

 

勝敗

ここは盛り上がるだろうと期待された超新塾がそこまでつかみきれず、囲碁将棋がストロングスタイルの漫才で完勝。もっと一般寄りのお客さん入れて、審査員立てたら超新塾に風が吹いたかもしれないけど、囲碁将棋にとって、お笑いファンの東京のお客さん審査員はホームグラウンド過ぎた

 

マシンガンズvs三四郎

マシンガンズは二本目でかなり盛り上がった。レッドカーペットの頃からやっているヤフー知恵袋のネタと、今現在のTHE SECONDに出てる自分達のTwitterエゴサーチを結びつけたのはすごかったと思う。ここで単に過去ネタをやってたら勢いが落ちてたと思う。

三四郎は二本目の途中まで優勝あるかもと思ってたけど、二本目の途中で失速。小宮さんが「エアポケットに入った」と秀逸な表現をしてたけど、今大会で唯一三四郎の後半だけが滑ってた。とことん自分の事を掘り下げる三四郎と、市井の人の代表としてアジテーションしてるマシンガンズ三四郎のエアポケットは、ちょっと自分事になりすぎてる空気についていけなかった雰囲気だった。

 

ギャロップvs囲碁将棋

この対戦は同点、どちらが勝つか読めないベストバウトだった。ギャロップは相変わらず導入に時間がかかるけど、イメージ化ができたらその世界に取り込んで魅了する。わかりやすいあるあるから入って、強いボケ、大きな山場を作っていく。

囲碁将棋は、昔の勝負ネタ、4分版で見慣れたせいもあり、これが6分になって更に面白くなってるのかどうか、ちょっと判別がつきにくかった。大好きなネタだけに。途中、聞き取りにくい箇所もありそこからちょっとテンポが乱れた気もする。なんで副業なんだろうと思ったけど、1本目と重ねてきてるんだと思って、すごいと思った。自分はやっぱ4分版の方が好きかな。松ちゃんがすごいと驚いてるのが嬉しすぎる。こんな面白い漫才を予選で落としたM-1って実は、そこまで大したもんじゃないんじゃないかとうらみ節を感じてる所はある。

 

マシンガンズvsギャロップ

お笑いファンの悪い所なのかもしれないけど、ネタがないという事をテーマに本当にネタが無くて、アドリブで今の気持ちを喋りながら笑いを取っていくマシンガンズのやぶれかぶれのスタイルがめちゃくちゃ面白くて、格好良くて、流石にネタとしてまとまりがないとは思うけど、ベテランの凄さを見たと思った。ベテランでもこういう芸風の人は稀有だからなかなかこれと同じような荒業が出来るコンビはいないと思う。こんな漫才見たことない、そして笑ったという意味では、マシンガンズの3本目が一番印象が深かった。ギャロップの3本目は、とにかくネタ振りが長く自分好みのネタではなかったけど、お客さんが冷静だったというか、きっちりネタを研ぎ澄ましたギャロップに票を入れた。ここでマシンガンズが勝ってあんなの漫才じゃないと荒れるより、良いネタをしっかりやったギャロップが優勝したのは良かったと思う。

 

THE SECOND~漫才トーナメント~ - フジテレビ