THE SECOND2024 感想②

感想は見てすぐ書くべきだと思う。時間が経つと熱量が下がるので、勢いでかき飛ばせない。まあクールダウンした状態の冷静な感想も良いかもしれない。M-1との大きな違いはネタ時間が6分ということ。視聴率や影響力は別として、お笑いファンの中で賞レース漫才の適性時間は、4分ではなく6分なのではと感じている人も少なくないと思う。ベテランだからこそ6分なんだというのはあるだろうし、共存していくと思うけど

 

1、ハンジロウvs金属バット

ハンジロウは最強のネタで受けもあった。勝てなかったのは、①コントだから②初出のネタではなかったから③相手が強すぎた というあたりか。①は漫才師らしい漫才をする金属との対比でより際立って感じた。金属はM-1以前の漫才の匂い、寄席感が強く、賞レースガチガチ漫才にはないゆとりや余白のようなものがあり、それが金属特有の魅力に繋がっている。②は結構前からあるネタでKOC予選、にちようチャップリンなどでも披露した事があるネタという認識なんだけど、初見だったらもっとインパクトがあったのだろうと思う。聞き間違いの件も何年か前のM-1 1回戦で1位通過したネタだったと思う。その辺り、観覧している審査員は、普段、ネタ番組を見たりノックアウトステージを見たり、ライブに足を運んだりしてる人も多いと思うから鮮度が無かったのではないかと思った。金属の方は少なくとも賞レースにおいては新ネタ。配信で見た人も面白かったのは覚えてて細部は忘れてて、ああこういうネタだったと思い出しながらピースがハマる感覚があり、鮮度があったと思う。2日目のカレー理論じゃないけど、初見より2回目、3回目と味わいが深まる事はある

 

2、ラフ次元vsガクテンソク

ラフ次元は、全部嘘っぽく聞こえてしまって、漫才なんだからそういうものでしょうという話かもしれないんだけど、しゃべくりスタイルだからか、その辺が気になってしまった。いかに自然な会話に聞こえるかという事を自分は重視しているので。伏線も多く、ネタだなという印象が強かった。ガクテンソクは、ネタの間、よじょうさんがずっとボケのキャラに入りっぱなしというかボケしかしない人なので、そういうものとして自然に見れて、馴染みもあり見やすかった

 

3、ななまがりvsタモンズ

正直どちらも突き抜けなかった。ななまがりは一個強いボケがある16→8のネタを持ってきた方が良かった気がしてる。エキセントリック過ぎて面白い。唯一無二だし、受け入れ態勢もできてる無双状態ではある。ただいつも同じような構成のネタなので見てる方が慣れてくる所はある。タモンズは、東野さんのコメント通り。じっくり見ると面白いけど、初見の時は何をやっているのかよくわからなかった

 

4、タイムマシーン3号vsザ・パンチ

タイムマシーンはいつも通り完璧な出来だった。昨年有りネタで挑んで負けて、今年は新しいネタで勝負。鮮度という意味でザ・パンチに引けを取らない。正直もっと点数が高いかと思ったけどあまり伸びず。ザ・パンチに風が吹いているのと、マイナス要素を入れてきたからか。タイマはオンバトという観客審査で無双してきたコンビで、どうすれば勝てるか、というのは熟知しているはず。それでもあえてブラックな要素を入れたネタを試したかったのだと思うし、票が割れることも覚悟の上で、ザ・パンチに勝つにはあまりメディアでやっていないこのネタで勝負するしかなかったのだろうと推測してる。ザ・パンチはまさにザ・セカンドの申し子のような条件の適ったコンビ。かつてと違う芸風、漫才スタイルを獲得してこの日までバレずにお披露目できた。純粋なネタの評価ならもっと競ってたと思うけど、ザ・パンチというザ・セカンド発の野村再生工場的なスターの活躍を見たいという気持ちも審査を後押ししたはず

 

5、ガクテンソクvs金属バット

ここは本当にどうなるのか、結果がわからなかった。お笑いファンとしては、過去寄せ集めベスト構成のガクテンソクは鮮度がなく、毎年賞レースにおける新ネタをぶつけてくる金属の戦い方に惹かれる。ただパッチワーク漫才などと否定的な意味で揶揄されがちなベスト盤漫才を披露したガクテンソクの出来もすばらしかった。話の流れに沿っており、淀みがない。初見だったら、このネタがいろんなネタをつなぎ合わせていることに気付けないだろうと思う。何より、以前よりも掛け合いが多くなり、演技も細かく、台本ガチガチ感もなくナチュラルな雰囲気が漂っている。2013、2014年のTHE MANZAI決勝の時は、片方が喋り片方が揶揄する分離感があった。この時代は、他にも銀シャリ、ハライチ、ナイツなど会話をしないような漫才が多く、流行りだったんだと思うけど、その辺りが今の時代にあったAとBのライン、BとC(観客)のラインという立体感を生み出した漫才になっていた。金属バットはそのあたりは昔から友保さんの返しというのは大まかな台本に沿った自由演技に見えるし、それに応える小林さんも自然とそうなる。金属バットはこの出来、このネタで勝てなかったのは悔しい。この大会の雰囲気やルールにあっているので、来年優勝してても不思議じゃないくらいに思ってる

 

6、タモンズvsザ・パンチ

ここは両方とも、1本目の流れを汲んだ良いネタ、しっかりウケて、キャラもハマってて甲乙つけがたい対戦だったと思うけど、そうなるとどちらがより会場にハマってるかという所でやはりザ・パンチの独特の芸風と漫才スタイルに魅了された人が多かったんだと思う。本ネタに入るまで約3分、観客に向けて語り掛けるスタイルというのは他にない。営業っぽい漫才というか。自分はザ・パンチ、1本目より2本目の方が好きなくらいだけど、1点評価がたくさんいた。東野さんの言うように1本目と被る部分があったのが要因か。そうなると3本目もガラッと変えてくることはなさそうだし、相手はガクテンソクだしでちょっと厳しそうという雰囲気があり、それを最後まで覆せなかった。3本ネタ勝負は、正統派のボケツッコミか、バリエーション豊富でどれも強いという組しか厳しいかもしれない

 

7、ザ・パンチvsガクテンソク

観る前から、もうガクテンソクだなという感じがあったけど、2008年M-1やレッドカーペットで一世を風靡したあの決めワードを入れてきたのは熱かった。ここが個人的にはクライマックスだったかも。スーマラ武智さんの言うように、もっと入れ込んできても良かったんだろうけど、一撃だからこそ良かったような気もする。ガクテンソクって昔からネタが面白かったし、ベテランの雰囲気すらあったけど、ようやく本人たちの芸風と年齢と認知度とキャリアともろもろが合致して、完成したって感じする。奥田さんの淀みない理路整然としたつっこみが心地良い。バラエティでも活躍すると思う。M-1常連になって、優勝してもおかしくなかった実力派コンビだったけど、何故か縁がなかった。ここで報われて良かったと思う。タイムマシーンも本当に、M-1優勝してておかしくないようなコンビだった。もう名人という感じで、若い頃から達者だったけど、脂がのって、かつての自分達を超えて行っている

 

終わりに

水を差すつもりはないんだけど、この大会がお笑いファンの夢妄想を具現化したような素晴らしいイベントであると思う反面、「本来であればなかった世界線」であり、なくても良いと感じる側面もある。芸歴15年を超えて、賞レース漫才から卒業して、劇場番長になるのか、コントを始めるか、副業を始めるのか、メディアに力を入れるのか、ひっそり引退してしまうのか、というベテランになった漫才師のそれぞれの生き方というものがあった。だからこそ、M-1ラストイヤーというのは大きな意味があった。M-1ラストイヤー、決勝に残れなかったけどザ・セカンドがあるから挑戦は続くというのは素晴らしいことだけど、当面の間、漫才師は終わりのない賞レースバトルから脱却することができない。これが良い事なのかどうか。自分は、囲碁将棋、ななまがり、金属バットなどの推しがM-1の決勝の舞台に立つ姿をずっと夢想していた。それが形は異なれど適った(全国区の賞レース決勝にあがった)ことはワクワクが止まらないし、救済措置としてありがたく感じる。お笑いファンとしてはこの大会があることが本当にうれしいし、他の賞レースと違いM-1と差別化を図った上でシステム設計が素晴らしく、不満もないので一年でも長く続いてほしいと思ってる。ただそれほど興味がない層からすれば、15年以上のベテラン漫才師の大会というのはやる必要があるのかという厳しい目が向けられる恐れはあると思う

 

THE SECOND~漫才トーナメント~2024 - フジテレビ